取適法とりてきほう
取適法(正式名称: 中小受託取引適正化法)は、発注側の企業が中小の受注企業に不利な条件を押しつけないよう、発注書面の交付や支払期日などのルールを定めた日本の法律。下請法の後継で、2026年1月1日施行。
最終更新 2026-07-29
基本情報▲目次
| 正式名称 | 中小受託取引適正化法 |
|---|---|
| よみ | とりてきほう(略称)/ちゅうしょうじゅたくとりひきてきせいかほう |
| 施行日 | 2026年1月1日 |
| 前身 | 下請代金支払遅延等防止法(下請法) |
| 所管 | 公正取引委員会/中小企業庁 |
| 規制の向き | 発注する側(委託事業者)に義務を課す |
| 一次資料 |
公正取引委員会「取適法・振興法」 中小企業庁「中小受託取引適正化法」 |
概要▲目次
取適法は、企業間の業務委託取引(製造・修理・情報成果物の作成・役務の提供・運送など)で、発注する側が立場の強さを利用して受注側に不利な条件を押しつけることを防ぐための法律です。1956年から続いてきた下請法(下請代金支払遅延等防止法)を改正し、名称ごと改めたものが2026年1月1日に施行されました。
改正の背景には、原材料費や人件費が上がっても受注側が価格に転嫁できず、中小企業の賃上げが進まないという問題があります。このため取適法では、協議に応じないまま代金を一方的に決めることの禁止や、現金化に時間のかかる手形払いの制限など、支払いの実効性を高めるルールが加わりました。
規制の向きが一方通行であることが特徴で、義務を負うのは常に発注する側(委託事業者)です。受注側(中小受託事業者)に新しい義務は生じません。
語の成り立ちと読み方▲目次
正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。この長い名称に対して「中小受託取引適正化法」という通称が使われ、さらにそこから4文字を取ったものが「取適法」です。
取り方は連続していません。中小受託取引適正化法のうち、「取」「適」「法」を拾っています。読みは「とりてきほう」で、「しゅてきほう」とは読みません。
旧称と、なぜ変わったのか
旧称は「下請代金支払遅延等防止法」、通称「下請法」でした。改称の理由として示されているのは、「下請」という用語が発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えること、そして発注側の大企業でもこの用語が使われなくなっていたことです(公正取引委員会と中小企業庁が共催した企業取引研究会の報告書、令和6年12月25日)。
名称の変更にあわせて、法律の中の用語も入れ替わりました。親事業者は委託事業者に、下請事業者は中小受託事業者に、下請代金は製造委託等代金になりました。つまりこの改正で「下請」という語が法律から消えました。
用語の新旧対照
| 旧(下請法) | 新(取適法) |
|---|---|
| 親事業者 | 委託事業者(発注する側) |
| 下請事業者 | 中小受託事業者(受注する側) |
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
他の言語での言い方▲目次
同じ制度を持つ国が他にないため、定訳はありません。英語で説明するときは、内容を訳して "Act on Ensuring Fair Payment to Small and Medium-sized Contractors" のような説明的な言い方になります。旧称の「下請法」は英語圏で Subcontract Act と紹介されてきましたが、改正で「下請(subcontract)」の語自体が法律から外れたため、この対応も使えなくなりました。
この事情は、日本の制度語を他言語で説明するときに共通して起きます。訳語が存在しない場合、このサイトでは無理に1語に当てず、何をする法律かを説明する形にしています。
沿革▲目次
| 1956年 | 下請代金支払遅延等防止法(下請法)制定 |
|---|---|
| 2003年 | 改正で対象に情報成果物作成委託・役務提供委託を追加 |
| 2025年 | 改正法が成立。法律名が「中小受託取引適正化法」に変わり、従業員数の基準と特定運送委託が加わった |
| 2026年1月1日 | 取適法として施行 |
誰が対象になるか▲目次
対象になるかは発注する側と受注する側の規模の組み合わせで決まります。下請法では資本金だけで判定していましたが、取適法では従業員数の基準が追加されました。資本金を小さくして規制を逃れる例に対応するためです。対象となる取引の種類には、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託に加え、特定運送委託が加わっています。
資本金による基準
| 取引の種類 | 発注する側(委託事業者) | 受注する側(中小受託事業者) |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託・特定運送委託 情報成果物作成委託・役務提供委託のうち政令で定めるもの | 資本金3億円超 | 個人、または資本金3億円以下 |
| 資本金1,000万円超〜3億円以下 | 個人、または資本金1,000万円以下 | |
| 上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託 | 資本金5,000万円超 | 個人、または資本金5,000万円以下 |
| 資本金1,000万円超〜5,000万円以下 | 個人、または資本金1,000万円以下 |
従業員数による基準(取適法で新設)
| 取引の種類 | 発注する側(委託事業者) | 受注する側(中小受託事業者) |
|---|---|---|
| 製造委託・修理委託・特定運送委託など(製造委託等) | 常時使用する従業員 300人超 | 個人、または常時使用する従業員 300人以下 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託 | 常時使用する従業員 100人超 | 個人、または常時使用する従業員 100人以下 |
資本金が小さくても、常時使用する従業員が300人(または100人)を超えていれば発注側として対象になります。これが下請法からの最大の変更点です。数値の根拠は本法第2条第7項・第8項。
発注する側が守ること(義務)▲目次
- 発注内容を書面で渡す代金・支払期日・給付の内容などを明示する。相手の承諾があれば電子的な方法でもよい
- 代金の支払期日を定め、納品から60日以内に支払う受領日から起算する。締め日ではない
- 取引記録の書類を作り、保存する発注・受領・支払いの記録
- 遅延利息を払う支払いが遅れた場合
禁止される行為▲目次
受注側に責任がないのに次のような行為をすることが禁止されます。
- 受領拒否・返品発注した物を受け取らない・返す
- 代金の減額いったん決めた代金を後から減らす
- 買いたたき通常より著しく低い代金を一方的に定める。協議に応じないまま代金を決めることの禁止が明確化されたのが改正の要点
- 手形払いなど現金化が遅れる支払手段約束手形での支払いが制限される
- 購入・利用の強制自社の商品やサービスを買わせる
- 不当なやり直し・給付内容の変更費用を負担せずに作業をやり直させる
- 報復措置違反を申告した相手への取引停止など
- 有償支給原材料の対価の早期決済・不当な経済上の利益の提供要請ほか、下請法から引き継がれた類型
違反した場合▲目次
公正取引委員会・中小企業庁が調査を行い、違反には指導・勧告が行われます。勧告を受けると企業名が公表されます。発注書面を交付しない・取引記録を作らないなどの違反には罰金の定めがあります。
罰金は50万円以下です(本法第14条・第15条)。対象になるのは、①発注時に明示すべき事項を明示しなかったとき、②書面を交付しなかったとき、③取引の書類・記録を作らない、保存しない、虚偽の記録を作ったとき、④公正取引委員会の報告徴収・検査を拒んだり虚偽の報告をしたとき。法人の代表者や従業者が違反した場合、その法人にも罰金が科されます(両罰規定・第16条)。
下請法との違い▲目次
| 項目 | 下請法(旧) | 取適法(新) |
|---|---|---|
| 対象の判定 | 資本金のみ | 資本金+従業員数 |
| 代金の決め方 | 買いたたきの禁止 | 協議に応じない一方的な代金決定の禁止を明確化 |
| 手形払い | 割引困難な手形の交付を禁止 | 約束手形での支払いを制限 |
| 対象取引 | 製造・修理・情報成果物・役務 | 左記+特定運送委託 |
| 用語 | 親事業者/下請事業者 | 委託事業者/中小受託事業者 |
実務での対応▲目次
発注側の企業で必要になる主な作業は次の通りです。
- 自社が対象になるかの判定資本金と従業員数を取引の種類ごとに確認する
- 発注書のひな形の見直し必要な記載事項を満たしているか
- 支払条件の見直し手形払いの取引を現金払い等へ切り替える
- 価格協議の記録を残す運用協議に応じた事実を示せるようにする
使い方(例文)▲目次
よくある誤解▲目次
関連する言葉
出典
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和31年法律第120号)第2条 — e-Gov法令検索
- 公正取引委員会「下請法が取適法に変わります」
- 中小企業庁「中小受託取引適正化法」
- 企業取引研究会 報告書(公正取引委員会・中小企業庁 共催/令和6年12月25日)— 改称の理由
- e-Gov法令検索: 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
- 中小企業庁「下請法・下請振興法改正法の概要」
最終確認日: 2026-07-29